先日、家人のシトロエン C3に大人5名でフル乗車というシークエンスを体験することができた。行き先は宮城県石巻市。タネを明かせば、県外に住む妹夫婦が来仙し、老母をつれての言わば「観光旅行」である。いきおいC3ではあるが、筆者が運転することになる。YES、当然最上級の模範運転ですよ(笑)。たまにはそういう縛りのきつい運転も良い。そういう状況下で真っ先に感じたのが、「前後重量バランスが変わると、こんなに操縦感覚が変わるのか!」という事実だった。考えてみればそれは起こって当然の変化なのだが、乗り慣れたクルマでの走り慣れた道の往復という条件もまた、それを気付きやすくしたのだろう。本エントリーでは、自動車における前後重量バランス変化がもたらす操縦性の変化にフォーカスして書いてみる。
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往路は上記GoogleMapに示したとおり、仙台市泉区北部から幾多の自治体を走り抜けて鳴瀬奥松島ICでE46三陸自動車道へ乗る、いつものコース。E46まではひたすら田園地帯の平野を、曲がりくねった舗装レベルの低い道で行く。
さて前後重量バランスの話。C3の車検証によれば、総重量は1,160kgのところ前荷重750kg、後荷重410kgとなっている。つまり、ざっくり65対35である。この後部座席に大人3人が乗ったわけだ。あるデータに拠れば、身長170cmの成人の標準体重は63.6kgとのこと。男女混合だったし身長もまちまちだったから、計算を簡単にするためにひとり65kgと仮定する。すると前席は130kg増、後席は195kg増で、この場合は総重量1,490kgで前後重量比は60対40となる。数字の上では大した事のないこの変化、しかしこの状態でのC3の旋回挙動の印象が普段とはまったく異なった。
往路前半部分、前述のとおりRの大小様々なコーナーが次々に現れる。全体で300kg以上、リア側だけでも一気に200kg近く増えた今回、当然リアの安定性が増し、特に旋回の入りはじめの様子が異なる。いつもの速度でいつものコーナーに入っていく時、リアがどしっと落ち着き、ハンドルを経由して手の平に伝わる前輪の挙動が、より鮮明になる。これまでC3の旋回時挙動で尻軽な印象を持ったことはないが、「案外いつもはリアのスリップアングルってさっさと付いていたんだな」と気付くことができた。そのいつも=前席に大人2名乗車の場合、旋回挙動はもっと軽やかだし、開始から収束までの時間も短い。タイヤが向きを変えたことはわかるが、横力とケンカしているような様子は皆無で、特筆するようなロールもなく旋回する。これにはごく軽く調律されたEPSの印象も相まっているのだろう。C3の挙動は、80km/hくらいまでは全体的に軽く速く、特に旋回は、ヒラヒラと形容したくなる。ところが5名フル乗車の状態では、大げさに言えば、向きを変えられたタイヤがまず撓み、旋回外側の前輪が沈み、前輪外側のタイヤが一生懸命踏ん張っている様子が重厚に手の平に伝わってくる。その際後輪はドシッと揺るがずに(いつもに比べれば)ゆっくりとスリップアングルが付く。
これをざっくり言うと、旋回挙動の解像度が上がったように感じられるのだ。前輪が今やっていること、その時後輪がやろうとしていることが、はっきりと手の平と腰に伝わってくる。模範運転だったから、車速にも運転手の動作速度にも余裕があったことも大いに関係しているだろう。映像で言えばDVDからブルーレイへ、ハイヴィジョンから4Kに変わったが如し。これは新鮮な体験だ。いわゆる走行モード切り替え機能にあるスポーツモードの、ハンドルの反力が重くなる演出と同じ効果がある。以前アルファロメオ MiToでも大人4名フル乗車で同じようなことを思ったが、あの頃はここまで言語化できなかった。
じゃあいつも重い荷物を積んで走れば万万歳かというと、そんなウマイ話はない。当然加速と減速が割を食う。アクセル開度はいつもの2割増だし、減速はいつもの倍の制動距離を担保しなければ不安になる。結局はBセグメントの実用車、それもフランスの、なのだ。盤石に感じられる各挙動の限界値が、意外とすぐ近くにあったことが、このフル乗車でよくわかる(逆にギリギリの性能なのに、プアに感じさせないチューニングは見事としか言いようがない)。重くなったことによる旋回の高解像度化は、いわば濃いめに作ったカルピスみたいなものだ。いつもじゃ飽きてしまうし、加速と制動で失うものが大き過ぎる。
これと逆の体験を先日プン太郎でしたばかり。実はプン太郎のトランクスペースには常に工具やブースターケーブル、空気充填コンプレッサー、大小の予備パーツだのをプラケースに入れて積んでいる。大人2名には及ばないが、それでもそれらはよっこいしょと運ぶような重さ。先日スタッドレスタイヤ購入に際して、いったんそれらの荷物を全部降ろし、タイヤ+ホイール4本をタイヤ屋さんまで持って行った。結局在庫が無く取り寄せ待ちになり空荷で帰ってくることになったのだが、帰路のプン太郎の腰軽っぷりに驚いた。旋回が俊敏になったと言えなくもないが、旋回挙動全体がつんのめってるというか、焦ってるというか、要は落ち着きがなくなってしまったのだった。いつもの速度でいつもの動作をしているだけなのだが、まるでタイムラプス映像の如し。リアの粘りが薄くなったせいで、ヨー起動がいつもよりも速くなったからだろう。
立て続けにこういう変化を体験できて楽しかった。余談だが、三陸自動車道におけるC3の直進の盤石っぷりも素晴らしかった。助手席に座っている家人ですら「今日はすごく安定してるね」とつぶやいたくらいなのだから。我がスタジオの配備車両はすべてFWD車両であり(前後荷重バランス最高のロードスターはすでに栃木に……)、トルクステアだのリアの安定志向なんてことは、理屈の上ではわかった気になっていたが、時々こういう実体験が必要だな、と痛感した次第。読者諸姉諸兄には釈迦に説法であることは百も承知だが、もし「へー、そんなに変わるかね」と思う方がいたら、ぜひ色々なものを乗せたり降ろしたりして試してみてほしい。
この日唯一撮影していたのがこれ。いしのまき元気いちばの元気食堂で食べたローストホエール丼。おいしかったけど、次回は金華さば焼き定食に決定だ!