長面浦へ行ってきた。長面浦と聞いて(読んで)すぐに場所と風景を思い浮かべられる方は少ないだろう。ナガツラウラの住所は石巻市。北上川の河口の脇にある湖のように見える浦である。
県内未到の地を探していて思いついた。こんな時でもなければ行こうとは思わないかもしれない。この周辺は、これまで「目的地への行程途中」で通り過ぎるばかりだった。立ち寄るとしても震災遺構「大川小学校」は辛いしなぁ(仕事で関わったことはある。本当にいたたまれなかった)。しかし逆に言えばあの辺は大川小学校付近しか行ったことがないわけで、その先の行き止まりにこんな大きな湾があることも長らく知らなかった。前述のとおりコロナ禍、宮城県内の未到の地、しかも何かワクワクする要素もあって……とGoogle Mapを眺めていたら、長面浦、なんとカフェがあるじゃないか。ではお昼ご飯をそこで食べてみよう、という気楽な動機ではあった。それがあんなことになるとは……。
朝7時半すぎに自宅を出発。ふらふらあちこちに立ち寄りながら行くには決して早すぎる時間ではない。最初の目的地は女川なので、いつものコースでE45三陸自動車道に乗る。石巻女川ICで降りて真野地区で田園風景を満喫。そのまま万石浦を経由してシーパルピア女川で一休み。工夫がないけど、これ以外のコースだと選択肢が多すぎ、時間が読めない。
大和町
定点観測地点。
春、ですなぁ
画像を初掲載!
野蒜街道こと
K60
石巻・真野地区の
パトロールも欠かしません!
真野・K192沿いの
真法寺の桜を眺めるのは
何年ぶりか
シーパルピア女川のマザーポートコーヒー女川店でコーヒーブレイク。
シーパルピア女川の
マザーポートコーヒー女川店
病身とはいえ1杯くらいはいいだろう。キャラメルモカを飲みながら女川からの道行をGoogle Mapで再確認。基本的にはR349をひたすら北上するだけなのだが、問題は雄勝地区。K192とK238とR349の交差点は行くたびに道路工事で様子が変わっており、何度か進路を間違ったことがある。今回は無事に北上できた。結果オーライである。
雄勝の海だぜ!
いよいよ北上川だ。K238への複雑な形をした交差点を右折。すると目の前は大川小学校跡である。大川小学校で2011年3月11日に何があったのかは、各自「石巻 大川小学校」でネット検索を試みていただきたい。その大川小学校は以前訪れた時よりもさらに校舎の劣化が進んでいるようで、心臓をギュッと掴まれるようだ。脇を走るK238をゆっくり通り過ぎ、さらに海方向へ進む。大川小よりも奥には初めて来たのだが、ものの見事に何もない。ひたすら荒地が広がっているばかり。時折見える建造物は寺院とお墓、そして工事現場のプレハブ事務所くらいだ。幸い道路は綺麗に舗装されているが、その対比が返って未だ癒えない震災・津波の爪痕を意識させる。
長面浦と思われる場所まで来た。しかし背の高い防潮堤が立っていて浦は見えない。周辺は整備工事の最中らしく、工事現場の中へ続く未舗装路があるばかり。そのところどころに立っている「長面浦漁業組合事務所→」「海人の家→」という看板を頼りにくねくねと進む。と、シェルター入り口のような巨大なゲートがあり、そこを通り抜けるとようやく海が見えた。長面浦だ。建物が2棟。漁業組合事務所とカフェだろうか。おじさんがひとりでひたすらコンテナをフォークリフトで運んでいる。
プン太郎を停め、その辺を歩いてみる。海水は透明度が高くて日光にキラキラ輝いている。湾だから波はほとんどない。対岸に民家がぽつりぽつり見える。ようやく人家を見た。すぐ脇のプラスティックコンテナの中には牡蠣。コンテナや建物脇の物置には小川水産の文字。そういえばフォークリフトにも小川水産のロゴがあった。とするとここは小川水産の作業所かなにかだろうか。見るとカフェの看板を出している隣の建物の中に女性がひとり、何かの準備をしているのが見える。まだ11時前だがカフェ的営業としてはもう11時とも言えないだろうか。まだ準備に時間がかかるのかなぁと痺れを切らした筆者、入り口から声をかけてみた。「あのー、何時から営業ですか?」。
忙しく立ち働いていた女性が驚いた顔を一瞬向け、筆者に言った。「やんないの。営業してないの。もう1年くらいになるかなぁ」。その女性は筆者を中に招き入れ、詳しく話してくれた。東日本大地震で長面浦の部落では100名以上の方が亡くなった。対岸の集落は逆に亡くなったのはひとりだけ。生き残った人々が漁業(牡蠣の養殖)を復活させたものの、建物は何もない。作業中に疲れても休憩する場所もない。公的な支援もありようやく休憩所ができた。その休憩所が発展的にカフェとなったのが2015年。周辺の集落の女性たちによる運営だった。そんな経緯が壁に写真付きで貼り出されている。カフェのパンフレットをいただいた。今はやってないけど。
「まぁ座って。いまコーヒーでもごちそうするから」と勧めてくれた。カフェを立ち上げたは良いが、足の不便な場所に人がわんさか訪れるわけでもなく、また漁業というのは1年中忙しいのだそうだ。そんなわけでカフェは休業状態、今では集会所のような使われ方がせいぜい……らしい。すぐ隣の厨房にももうひとり女性がいて、これまた忙しく料理の準備をしている。見ると目の前のテーブルの上にはすでに調理された煮物や、ふきんが被せられた鍋いっぱいの、なんだこりゃ?あ!カニだ!茹でガニが山のように。宴会ですか?と訊けば、宴会は宴会でもおもてなしだった。さっき通り過ぎてきた大川小学校遺構に、長野から桜の若木を送られたのだという。その数269本!
朝日新聞デジタル
この日、桜の木のメンテナンスのために長野から4人が来訪していて、今まさにその作業中なのだという。ふたりの女性はまさにその昼食の準備で忙しいのだった。厨房で立ち働いているのは大川伝承の会の偉い人の奥様だという。いやいやそれを早く言ってよ!何も知らない筆者はのこのこ現れておもてなしの準備に忙しいところお邪魔してしまっているのだった。だが帰ろうとしても女性の話は終わらない。まぁ良いから座りなさいよ。このカニ、ひとつあげるから食べてって。女性にお名前を伺うと小川です、と。先ほどからフォークリフトが大活躍の小川水産の奥様であった。フォークリフトドライバーの男性は「あ、あれは息子ね」。そうでしたかー。いいからこのまま残っていけばいいさ、食事しているところ写真に撮ってくれればいいからさ、と小川さんは言うが、そんな写真の腕はないし、一体どんな面を下げてその場に居ればいいのか。小川さん、ほんとお邪魔しました。これで失礼しますから!と強く何度も言ってようやく帰してもらえた。「ウチは牡蠣を扱ってるから、いつかまた来て牡蠣を買ってくれれば嬉しいわ」。電話番号をメモしてくださった。外に見送りに出てくださって、浦の対岸を指差しつつ「あれが津波の時に避難したお寺。少し右のあのこんもりしたところが神社。あっちに避難した人もいてやっぱり助かったのよ」。そんな話を聞いてしまってはお参りせずにはいられない。元カフェを後にして、湾の出入口をまたぐ古い橋(立派な新しい橋がかかっているが、2021年2月13日の地震で渡った先の法面が崩落し、開通は延期されてしまった)を渡る。海蔵庵と久須師神社をお参りする。
海蔵庵
久須師神社
週末なのに誰もいない。工事現場があるので、むしろウィークデイの方が人がいるのかもしれない。お日様がまぶしく暑いくらいだ。もう一度浦を見る。さっきまでお邪魔していた建物2棟が対岸に見える。長面浦やその周辺の集落に元通りの人口が戻ってくるだろうか。その前にこの荒地の整備はいつ終わるのだろうか。筆者にできることなど、長面浦を再訪して小川水産で牡蠣を買うことくらいだ。もう我が家は牡蠣は小川水産からしか買わないことにする。
長面浦を辞すると、ちょうど昼時である。カフェの休業で宙に浮いてしまった昼飯は、道の駅津山の「お食事処 木里口」で穴埋めするつもりで新北上大橋を渡る。しかしそのプランは、堤防下の集落橋浦大須地区のある交差点を曲がる時に覆された。その交差点角にある町の食堂が大賑わいだったのだ。めっちゃ良い匂いがプン太郎のコクピットにまで侵入してきた。狭い駐車場がすでにいっぱいに見えたので、その食堂に入ることはあきらめたのだが、峠を越えて津山へは向かわず、反対側の横山という集落にワンチャン求めてハンドルを切った。その結果ランチ営業している居酒屋さんに入店できたのである。素晴らしい。
もうすぐ追分温泉……な
K64
居酒屋さ蔵
(登米市津山町横山字本町182−7)
に入店!
生姜焼き定食
950円
「居酒屋さ蔵」、店内はごく普通に洒落た個室居酒屋で、おそらく夜営業は大繁盛しているのではないだろうか。メニューから無難な生姜焼き定食をオーダー。そこそこ美味しかったのだが、最大のミスは「ご飯、少なめに……」とオーダーし忘れたことだ。こちとら残すことができない性分。つい完食してしまう。いつになく重い胃袋を抱えて帰路につく。
帰路は宮城県北の内陸をふらふら。かなり適当に走り回ったのでテキストでお伝えすることができない。こんなこともあろうかとログを取っておいた。
画像をクリックすると
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今回は登米町内(市名は"とめ"と発音するが、町名となるとなぜか"とよま"と発音する。なんで??)で右左折を間違ってしまったが、そのうろうろしている感じが良かった。店構えの良い旅館も見つけた。小さな町の魅力を見つけるにはクルマの速度は速すぎるのだが、迷ってうろうろ走るといいこともある。K61を走っているつもりでいつの間にかK23に、K23のつもりでK15を走っている……という有り様だったが、運転している本人はたいへん楽しい。涌谷町内でとうとう見覚えのあるK15区間に乗ると、あとは目をつぶっても走ることができる(比喩ですよ!)。K152は鳴瀬川沿いの堤防を見上げながら走る区間があるのだが、実は筆者は「堤防好き」。なんじゃそりゃと思われる方が多いと思うが、堤防を見るとその向こう側の景色を見ずにいられなくなる性分なのだ。いつもはついつい走り抜けてしまうが、この日は完全にのんびりモード。プン太郎を停め堤防のゆるい坂道を上る。
船形連峰
今回訪れた場所は仙台よりも北に位置するだけあって、数日から1週間くらい時間を巻き戻したような景色をたくさん堪能できた。その後三本木を経由して大和町の田園地帯を通りぬける。これ以降はR457に合流し、朝走った経路をひたすら仙台市内目指して走るだけになってしまう。あまり楽しくないのでさっさと走りきってしまいたくなるのだが、無理な追い越しなどはご法度。車線内をふらふらしつつ速度も一定じゃない挙動不審な軽自動車の後をゆっくり走る。こういうドライバーを普段から嫌悪している筆者だが、この人のおかげで泉警察署の移動式速度違反取り締まり(早い話がネズミ取り)の検挙を免れた!あぶねー。ネズミ取りが違反と見なす速度が制限速度の何km/h増しなのか詳細は知らないが、都市伝説によると20km/hだという。つまり制限速度40km/hの道路を61km/h以上の速度で走っていれば検挙されるわけだ。アドレナリン分泌が最高潮の時なら危なかった。何度でも書くが、日本の警察が通年行っているこういう卑怯な取り締まりは、百害あって一利もない。いや、警察には違反金が入金されるから一利はあるのかもしれないが、市民にとって一理もない。今この瞬間に全廃すべきだ。
7時間半/241km
帰宅後家族にお土産を披露。それはあの茹でガニである。それも2杯。実は筆者、カニという食べ物にあまり興味がなく、長面浦でどうしようか迷った揚げ句土産にしたいと小川さんに申し出た。するとすかさず「じゃあもうひとつあげるから」ともう1杯いただいてしまったのだった。トランクにタオルで包んで置いておいたにも関わらず、車内にほんのり茹でガニの匂いが漂い、翌日朝、出勤の時にもその匂いは残っていた。苦手な匂いのはずなのになぜか憎めない。次回は小川水産で牡蛎を買うためにだけ、長面浦を訪れてみたい。筆者、牡蛎も苦手なのだがそんなことは些細なことだ(家族は大好き)。せめて小川さんの奥さんの「ありがとね」を聴いてみたい。