「県境GIRIGIRIツーリング」と称して先日訪れたばかりの宮城県栗原市栗駒岩ヶ崎へ、今度は家人を伴ってシトロエン C3で出かけてきた。前回よりも少し時間をかけて街を歩いてみたところ、ますます岩ヶ崎という町が好きになってしまった。いつものツーリング記とは少々毛色の違うレポートになるが、よその土地に出かけ新たな文化に触れることも、広い意味で自動車文化と筆者は考えるので書く。
この日の筆者の目標は「栗原岩ヶ崎の地元ジーンズブランドCannLineでブラックデニムパンツを買う」ことと、「家人をスープ屋コトコトに連れていく」ことである。目標というほど大層なものでもない(笑)。あとはやはり先日偶然走ることができた栗駒高原へ至る山道をC3で走ることである。昼時の早い時間に岩ヶ崎到着を目指すため、9時過ぎに自宅を出発。前回は県道農道を織り交ぜて敢えて遠回りをしたが、今回は逆に王道コースで。すなわちR457を岩出山まで北上、岩出山でK17を真正直に岩ヶ崎へ直行する。ソロツーリング初心者の頃にげっぷが出るほど走ったコースなので最近は避けていた。数年ぶりにこのコースを走るとどんな気持ちになるのか興味津々。R457で行く岩出山で家人に運転を交替してもらい、K17で里山を縫うように走る。決定的な遠回りになるような致命的な別れ道などはなく、国土交通省設置の県道ナンバー標識に従って走っていれば良いのだから気楽である。
前述の通り、K17を北上するのは何年ぶりかすぐに思い出せない。要所要所で見覚えのある建物や交差点が現れる。アルファロメオ MiToで「探検」と称してソロツーリングに出始めた当時(2009-10年頃)は、このK17を走ると「地の果てまで来たなー」と悦に入っていたものだ。久しぶりに走ってみれば幹線道路としてそれなりに(田舎にしては)交通量もあって、道幅も広い。当時と印象が違うなぁが第一印象ではあった。だが助手席できょろきょろと周辺の景色を眺めれば、立派な塀に囲まれた豪農(と思しき)屋敷とか、そういう塀の向こうに泥がついたままの農耕車が停まっている様子とか、閉校してしまった小学校とか、田植えが終わったばかりで水面ばかりがキラキラ光る田んぼとか、筆者の大好物な点景が次々と現れる。曲率の小さなコーナーとアップダウンの連続。K17、良い道だ。ご無沙汰していてすみません。
岩ヶ崎に到着したのは11:30頃だった。走り慣れた道路の時間予測は我ながらうまい。先日と同じく道の駅の広い駐車場にC3を停め、通りに踏み出すと家人は大興奮。岩ヶ崎は古い建造物に目がない家人の大好物物件の宝庫である。写真を撮りたがる家人ではあったが、まずは筆者の目的を優先させてもらう。ジーンズ屋「Cann Line」さんへ。この界隈に真っ黒い外装の小さな店舗は目立つ。しかも一見では何のお店かわからない。おもしろそうなので近づいてみたら、なんとジーンズ屋さんなのだった。ここンちは本当にこの店舗でジーンズを縫製して販売している。製品には「日本国栗駒産」のタグが付けられる。詳しくはリンク先のオフィシャルサイトを見て欲しい。自分が欲しい商品を作って売るという、シンプルだがこの上ないモチベーション。「好き」が詰まったこの小体なジーンズショップに惚れてしまった。クラッシュ加工ブラックデニムを1本購入。別の1本と比較試着したのだが、本来は意中のモデルだったそちらはぴったりのサイズが売り切れていた。各モデルは売り切り、再発売は未定だそうで無念。他にもほしいものはもちろんあったがグッとがまん。アイスコーヒーを振る舞われ、お店のお姉さんとお話しするのも楽しい。
Cann Lineさんを辞して、向かいの「スープ屋コトコト」さんへ。我々の入店直前に小さな女の子を連れた若いご夫婦も入店。小さな店内がこの日はとても賑やか。特に小さな女の子が歌うようにしゃべる。聴いていて楽しい。スープセットをオーダー。この日は家人がポタージュ、筆者は塩麹で味付けした澄んだスープ。念願だった胚芽味の濃いおいしいパンも食べられた。栗駒のインディペンデントパン屋さんのものを仕入れているそうで、前回パン屋さんの都合で品切れていたのだ。
朝食が少し遅めだったのでこれくらいでも満腹になる。やさしい味付けだが素材の味がしっかりしているので、薄味という印象ではない。満足して退店。
町をぶらつくので買い物袋をいったんC3の車内に置く。いつの間に来たのか、C3クロスが向かいに停まっている。ふとその後ろをみやれば、な、なんと!ダッヂ チャージャーがしれっと停まっているではないかっ!「これ。これ買って」と家人にねだったが一笑に付される。舐めるように外装チェック。グレードはR/T、即ちロードアンドトラックで、タイヤ・ホイールは22インチだろうか。純正は20インチなので2インチアップすか!やりますね。クーペボディのチャレンジャーと違ってチャージャーは極厚オーバーフェンダーが付いていなくても端正で充分美しい。実は筆者、スキャットパックワイドボディが欲しいのだが、見た目はドンピシャでも馬力がありすぎて筆者の生活圏内では持て余す恐れがある。
そうかー、R/Tで20インチホイールでちょっと車高落とせば完璧じゃーん!などと栗駒の駐車場でひとり胸アツになっていたところ、あきれた家人は早々に鉄砲玉に。iPhoneのカメラを起動させっぱなしですぐに姿が見えなくなってしまった。筆者も味わいのある建物を見てあれこれ想像するのは好きだが、家人ほどの熱量はない。チャージャーに別れを告げ、筆者は筆者で写真を撮りつつ商店街の店々を見て回る。
「大手屋」さんなるお店でたいやきを購入。
店外の歩道で一口食べて爆驚!その一口でしっぽやお腹からあんこがはみ出てくる。これでもかとあんこが詰められている。見た目は焦げ色が強く、しかも無用に皮ばかり厚そうに見える少し残念な第一印象だったのだが(←失礼)、この極甘つぶあんとその量ならば、断じて皮は厚くなければならない。これはあれだ、クルマでいえばアメリカントレーラーだ。超重量級、ずっしり重めの極上たいやきである
こういうの
街角でたいやきを頬張りつつ感動しているところに、家人が戻ってきた。近代史の光と影がコンフュージョンしまくっている建築物の連続で家人は大興奮である。なんなんだ岩ヶ崎、楽しいじゃないか。そのまま「六日町商店街」へふらりと入り込む。
先ほど「コトコト」さんでいっしょだったご夫婦とすれ違う。ん?あれは……Cさんじゃないか??友人である。だがもう数年も会っていない。乳飲み子を抱っこさせてもらったのが最後ではないか……。モヤモヤしつつ鎌倉の有名な雑貨・文房具店「コトリ」の支店で買い物をしていたら、ちょうど彼らがお店の前を通りかかった。筆者が動く前に家人が店を飛びだした。やっぱり!なんと友人Cさんご夫妻とご令嬢だった。彼女たちもモヤモヤしていたらしい(笑)。しばし立ち話。いやー、仙台でだって滅多に会えなかったのに、栗駒で偶然同じ店でご飯を食べているなんて、ねぇ。
夫君とご令嬢が水笛に水を満たしに行っている間に撮影してしまった
改めて「コトリ」に入店しなおして買い物(笑)。このお店の魅力を伝えるにはもうウェブサイトを見てもらう方がよほど早い。ポチ袋など購入して帰路につく。※リンク先は本家鎌倉店舗のものだが、栗駒のこの支店も魅力は変わらない
やはり先日通行止め警備員のおじさんに教えてもらった農道を走る。K17よりもディープな里山ロード。好天でもあり山の緑が目に眩しい。プン太郎と比べて脚がよく動くC3なので、下りコーナーへの進入速度は抑え目になる。むしろそれが気持ち良い。鴬沢を走り抜け細倉へ。旧鉱山資料館の駐車場にC3を停め、文化遺産である「旧細倉鉱山」の威容を見学。
R457に乗ってもう少し南西に進む。こちらも3ケタ国道とは言え充分里山ロードである。前回同様、栗駒上原の酪農地帯をのんびり走る。
岩出山まで戻り、地元の方々の生活道路みたいな細い道をクネクネと進む。K158の意外な交差点に出ればあとはいつものコース。三本木・ひまわりの丘など横目で見つつ帰宅。
それにしても岩ヶ崎は不思議でおもしろいところだ。この商店街で歴史を重ねてきたと思われる老舗の合間に、リノベーション物件と思しき小奇麗な若い店舗が点在している。それらのお店はお商売というよりも、どんな人でも気軽に集まれる「場」を作りたくてお店をやっているようにすら見える。人と人の縁こそが商品。カフェ「かいめんこや」はもちろんのこと、「六日町ナマケモノ書店」や鎌倉の有名な雑貨・文房具店「コトリ」の支店などもそうだ。いや、ジーンズ屋さん「Cann Line」も「スープ屋コトコト」も、実はそうなんじゃないかと思えてくる。一見ちぐはぐでアンバランスに見えるこの状況こそ、よその土地の人を巻き込む重要な仕掛けなのではないか。宮城と岩手の県境の小さな町に、多様性がしっかり担保されたこんな魅力的な商店街がある意外性に、筆者も家人もCさん一家も惹かれているのかもしれない。