宮城県在住のツーリング好きとして、年に1回は栗駒山を走りたい。栗駒山は宮城・岩手・秋田の3県にまたがる名峰であり、ツーリング経由地としても一級である。筆者の定番コースは、栗駒山北側でK282に乗り、R342で東成瀬村内を下り、再びR398に合流し、その後の行き先を秋田か岩手か考えるパターン。R398をひたすら下って秋田県を走っても良いのだが、須川高原から降りてきた秋田県東成瀬村の里山風景はたいへん美しく、どうせ栗駒山を超えるならぜひとも走りたい。だがK282は1年の内7ヶ月は積雪で閉鎖されてしまい、10月下旬はもう手遅れの可能性が高い(過去に経験あり)。今年もいつの間にか10月も下旬となり、筆者は焦っていた。リカバリプランを探ったところ、GoogleMapでK323を発見。明らかにワインディングだが、県道番号が振られている以上それなりに手入れもされているであろう。当日の仙台は晴天なれど、山形方面には雪雲が垂れ込める、まるで冬の一日のような天気。はてさて。
7:30に自宅を出発。土曜日ではあるが道路は混み気味。仙台市泉区から大和町、大崎市へ北上するいつもの田園堪能コース。R457を北上している間はペースも上がらなかったが、三本木へ抜ける農道へ入れば極楽である。定点で写真撮影。
いかにも太平洋側東北の冬の空模様。晴れているけど雪雲が西から迫る
三本木でK158を北上、大崎市へ入りK59、K17を北上。これだけだと新鮮味が薄いので、西へ向かうR398へのショートカットとなる初踏破区間を用意していた。この区間も里山堪能コースで感激。
K158で虹と出会う。幸先がいいぜ!
R398 長崎の水車
R398で順当に栗駒山麓の花山湖へ到着。
あやしかった雲行きが、栗駒山アタックと同時に大粒の雨に。残念に思いながら標高を上げて行く。宮城県側最後の人里、花山御番所跡で異変。土木事務所の黄色い作業車が2台路肩に止まり、作業員らしい人が運転手に声をかけている。「今日の10:00に閉鎖されるんですー。上の方、もう雪が積もってるんで」。プン太郎のマルチディスプレイの時計を見ると9:31である。あと30分??「寄り道しないで秋田側まで走り抜けてください。向こう側のゲートが閉まっていても、係員が付いてますから」。おおおおおおお。そんなにやばいのか?しかし行くなと言われたわけではない。ままよ行けるところまで、の心意気で一気に道幅を狭めたR398ワインディングパートを駆け登る。雨は一向に止む気配がなく……、というか、フロントガラスを叩く音の様子が変わってきた。液体ではなく個体になりかかっている。え?雪?
洒落にならない。しかし凍結はしておらず、幸いポテンザ アドレナリンRE003は路面を喰っている。だが慢心は大敵。湯野浜峠より秋田側は下りメインなので速度を落として進む。実際40km/h以上速度が出ると怖い。秋田県境に軽ワゴンを停め、立ち尽くすおじいさんを見た。動けなくなってしまったのかと思い、声をかけるべく徐行して近づいたら、カメラを持っている。どうやら10月下旬のあり得ない雪景色を撮影しようとしたのだろう。念のため窓を開けて「大丈夫?」と訊いたら、まさか心配されるとは思わなかったらしく、一瞬きょとんとして「大丈夫!大丈夫!」と笑顔。秋田ナンバーだから、こんなの積雪のうちに入らないのかもしれない。いや、人様の心配をしている場合じゃない。いよいよ路面が白くなってくる。あのおじいさんに後から追いつかれたらこっちが事故ってたじゃ笑い話にもならない。慎重に下り、K282との分岐点にようやく出る。
となりの三菱 アウトランダーは無人。あのー、どこに行ってるんですか?
もうわかっていたが、K282は閉鎖されていた。また来年の夏までさようなら。しかし今日はK323というリカバリプランがある。まだ東成瀬村をあきらめてはいない。このあたりからは路面もウェットに戻り、自信を持って下ることができる。大湯温泉入口ですでにゲートが閉められていた。係員らしいお兄さんがふたりいて、ゲートを開けてくれる。「先導車、いませんでした?」「いや、寄り道しないで駆け抜けてくれって言われただけですー」「雪、どうです?」「いやー、酷いっす。凍結はしてませんけど。ところで、花山からここまでの間に、路肩に駐車して、しかも無人のクルマを何台か見たんですけど……」「あー、山菜獲りですね」「山菜!?この雪で?」「今だときのこが旬ですからー」。マ・ジ・か!凍死しないでほしい。
さらに下る。空はどんより曇っているが、もう雪の影も形もない。小安温泉郷の各旅館にクルマがいっぱい停まっていて嬉しくなる。コロナ対策を万全にどうぞ。T字の分岐点からK323へ。橋を渡って東に進む。こりゃまた風光明媚な里山ですね。とプン太郎を進めたのも束の間、一気に道幅が狭くなる。かろうじて舗装はされているが、道幅は3mも無さそうで対面通行は不可能。これで対向車が来たらどうしよう……と思いつつ進むのだが、意外や意外、対向車が来るのだ。都度後退して少しでも幅の広い部分ですれ違う(路側帯は無い)。こりゃあナメてたなと後悔し始めたところに再び雪が!意識していなかったが、道幅が狭くなってからこっち、ずぅっと上りだった。ベタ雪ながらはっきりと積雪している。クランクで盛大にスリップしつつ涙目でプン太郎を進めるが引き返しはしない。だって東成瀬村はすぐそこなのだ。
なんとか無事に東成瀬村へ抜ける。R342沿いの民家では雪囲いの準備をしている。この土地の厳しい冬を思う。それにも増してドライ路面万歳。ようやくペースを取り戻して走ることができる。R397に合流して岩手県側に進む。
ビューティフル東成瀬村
岩手県奥州市との県境。ここでもうっすら雪が積もっているが、もはや感覚がマヒしてまったく怖くない。ようやく紅葉を楽しむ気持ちも出てきた。木も葉を赤くする前に雪が積もるとは思わなかったろう。次の目的地は奥州湖(胆沢ダム)、栗駒焼石ホットラインからの南下コースである。
あのー、さっきの積雪はなんだったんですか?気温差10度以上。若者が集っていると思ったらトヨタ カローラ(現行)のオフ会だった。カローラの、しかも若者のオフ会って珍しいのではなかろうか。気になったけどスルー。ホットラインからR342に合流。すでに正午も過ぎた。昼食をどうするか考えねばならない。K49を下る前に食べるか、宮城県に入ってから食べるか……。逡巡していたら「栗駒茶屋」なる看板を発見。以前立ち寄った山草小屋という食堂のお隣である。お団子が食べられるらしい。茶屋というからには店内で食べることもできるだろう。急きょ入店してみる。
注文を終えてイートインだと告げると2階席を案内された。1階の厨房からお団子などを受け取り急な階段を上がる。古民家をリノベーションした店内は、階段も、上がった先の2階の広間も風情たっぷり。先客は若い女性ふたり組だけで、そのふたりもほどなく退店した。陽の光が燦々と入る広間にひとり座り、団子と鉄観音茶をいただく。昼寝したい(笑)。お店の年内の営業は10月31日までだという。ここでもまた、この土地の冬を思う。
栗駒茶屋を退店するとK49への分岐点はすぐ。ペースの遅い某ハイブリッド車に頭を押えられていたのも数km、あとは誰もいなくなる。人もクルマもなにもない(野生動物には気をつけなければならないけど)。順調に距離を重ねて宮城県に戻ってくる。岩ヶ崎町に立ち寄ろうかとも思ったが、その後の体力(と立ち寄った際の散財)を考慮して今回はスルー。いつかの警備員さんに教えてもらった田んぼの真ん中の一本道を爆走。
栗原市一迫の「もちっ小屋でん」でしんこ餅を購入
K165
R457へ合流し、一部K17を再走してしまったが、岩出山でR47から宮城県畜産試験場方面へ曲がり中新田で再びR457へ合流。あとは寄り道せずに自宅までR457をひたすら南下した。
仙台市泉区。帰路も虹に出迎えられた
ホイールスペーサーを咬ませているプン太郎は、ドアやリアタイヤフードに落ち葉を盛大にはね上げていた。帰宅後あまりの汚れ具合に開いた口が塞がらず、流石に水洗い。
8時間/317km
蔵王に10日早い冠雪の報を聞いていたのに、またやってしまった。さすがの筆者も肝を冷やす体験だった。あお師匠に嗤われても仕方ない。しかし東成瀬村も栗駒焼石ホットラインもK49も、本当に美しかった。偶然とは言え栗駒茶屋を知ることができたのもラッキーだ。そして今回走ったコースの本当においしい部分は、2022年7月以降まで走ることができない。いやその前に、今年もK232は走れなかった。栗駒に関しては筆者、学習しないのだ。来夏にご期待あれ。