社会人となって関東地方に住む息子が、夏休み(?)でロードスターに乗って帰省してきた。こうなれば当然運転してみる。最後に乗ったのは3月だったろうか。久しぶりにロードスターを運転してみて気付いたというか、再認識したFFとFRの違いや足回りのセッティングについて書いてみたい。

久しぶりの操縦となったのは夜。あまり遠乗りするつもりは始めからなく、R286とK31で村田町という工夫ゼロの往路。村田町内のコンビニでひと休みしたあとは、コスモスラインで川崎町内へ抜け、秋保温泉と愛子を経由するのが復路だった。ちなみに息子のNCロードスター RS RHTは16インチの中古スタッドレスタイヤを装着したままで、これは仙台を離れるまで暫定的に誂えた中古ホイールと中古スタッドレスのまま北関東に行ってしまったからである。息子は現場仕事の肉体労働者で、ひとつの現場に1ヶ月くらい泊まり込みで赴くのは茶飯事。現場と現場の間の数日の休日に買い物がてら乗り回すのが関の山なのだ(だからバッテリー上がり事件が起こる)。たまの休日には乗ることが最優先で、メンテナンスする時間も金もないのが実態である。だから8月初旬のこの夜も、16インチスタッドレスタイヤで夜のワインディングロードを疾走することになった。タイヤのグリップが激プアなのは文句の付け所が間違っているのだが、16インチというホイールサイズは足のストロークの活発さと過大入力の押さえ込みにはむしろ福音だ。アピアランスへの虚栄心を捨てられれば、TOYOあたりの「普通の16インチラジアル」を履いた方が、それほどハードじゃない局面でもFRらしい挙動を楽しむことができるだろう。
そんな与条件を身体に染み込ませるだけで往路は終わってしまった。コンビニの駐車場で缶コーヒーを飲んで、特に旋回性能のキャラクターに心酔できたのは、山奥のワインディングをそれなりの負荷をかけつつ走らせた復路である。旋回の初期、駆動エネルギーに振り回されることのないロードスターのフロントは、面白いようにインに入っていく。マツダのチューニングのおかげでステアリングとの協調にズレなど感じる余地もない。そしてその時に後輪へ送り込むトルクが多ければ、すり減ったスタッドレスタイヤはあっけなく外に膨らんでいくし、そんな挙動に慌ててAペダルを戻せば、段が付いているかのように鼻を巻き込もうとする。それは登りだろうが下りだろうが大して違わない。あるのは素直なハンドリングと、駆動力の適正を伝えるシャシーである。
何を今さらそんなことを……とお読みのみなさんは思うだろう。だが日々アバルト プントエヴォ、そして時々シトロエン C3を運転する筆者には、この「駆動力の影響を受けないフロント両輪」がとにかく新鮮だ。繊細なAペダル操作をあまり意識する必要がないFF車両に比べて、常に限界を探りつつ右足操作を考えるのが楽しくてたまらない。ロードスターがポテンザを履いていた時はこんなにピリピリする必要はなかった。FRならではの頭脳プレイも要求されることはなく、お気楽太平にGTを気取っていられた。しかしロードスターの本懐はやはり旋回性能の鮮烈であろう。
ということで山道では文字通り「ヒャッハー」の声を木霊させつつ(かつ飛び出してくる野生動物に注意しつつ)、無事に川崎町内の平坦パートに入ったのだが、この充分に道路幅の広い里山区間では、今度はその素直な直進安定性に感心させられた。むしろプントエヴォの直進時の神経質さに改めて気付かされたと言うべきか。NCロードスターのフロントはひとたびハンドルを切り始めれば俊敏に向きを変えてくれるが、直進時はタイヤの存在を忘れてしまいそうになるほど安楽である。そして路面の細かなアンジュレーションを巧みに丸め込んでしまう。曲がって楽しく、まっすぐ走って楽しいとは、こいつはなんてデキたヤツなんだ!と嬉しくなってしまうではないか。
この点についてはプントエヴォを擁護する必要がある。昨年夏に新車以来交換されたことのない純正スプリング(左前輪)が破断し、前輪左右揃って新品の純正スプリングに交換した。
旧クルマで行きます 2020.06.20. 強化サスひと巻カットってヤツやね(Copyright by シャコタン★ブギ)
それ以来、当家のプン太郎は直進が神経質になり、ショックの丸め方も不器用になってしまった。これは同じようにヘタっていたダンパーが馬脚を現したのか、はたまたブッシュがご臨終していたのが発覚しているのか。筆者はその両方の合わせ技ではないかと睨んでいる。純正スプリングだけを新品にしたことによって、その他のパーツの草臥れ具合が浮上してしまっているのだろう。
筆者は今後ダッヂ チャージャーSRTスキャットパックワイドボディ、マセラティ グランツーリズモMCストラダーレ(中古)、ボルボ V90、ランドローバー ディフェンダー90、マツダ NBロードスター(中古)を増車するつもりなのだが、それでもプン太郎は乗り続けたいと思っている。そろそろ総走行距離が9万kmに届こうというプン太郎の、予防医学に基づいたメインテナンスを施すならこのタイミングなのかもしれない。とにかく2万5千キロで乗り始めた頃の、あの夢のような硬軟の絶妙なバランスを取り戻したい。


最後に強引にロードスターの話に戻るが、この夜のツーリングは当然フルオープンで行った。直進安定性の高さは、そのことも影響しているかもしれない。余計な捩りや過大入力は、夏の夜空に溶けていってしまったのだろう。